彼女のすべてを知らないけれど
悲しんでいても、日常は動いていく。
新しい校舎。見慣れない風景。新しい人間関係。桜の花びらが風に揺れている。
俺なりに、大学では普通に振る舞うようにした。
講義の時間割りを組み、気楽そうなサークルにも加入し、一人暮らしに必要な家事もこなす。
5月になると、安藤然(あんどう・ぜん) という男子学生と仲良くなった。然とは、毎回、授業が重なる。八割がた同じ講義 を取っていたし、偶然にも、サークルまで一緒だった。
然は、サークルの新入生歓迎会の時に、こんな自己紹介をしていたっけ。
「俺の実家、神社なんすよ。大学のそばの! 良かったらお 守りとか買ってください。あ、お祓(はら )いとかもやってるんで。
あ、名前は、自然の然って書いて然って言います! 親が、自然が好きだったとかでこーいう名前になりました。よろしくお願いしまーす」
テンション高そうだし、悩みとかなさそうだし、最初は絶対関わらないタイプだと思っていたのに、俺はそのうち、然と行動を共にするようになっていた。