彼女のすべてを知らないけれど

「理解できない。捨てるヤツの気持ちなんて。猫だって、人間と同じ、意志がある。命がある。生きてる家族なのに……」

誰に言うでもなく、やや強い語気で、俺は言った。

「捨てるくらいなら、最初から飼うなよ。 無責任に飼うから、猫は身勝手に捨てられて行き場を失うんだ。

表面的な可愛さだけに惹かれて気軽に手を出すくせに、自分の子供同様に愛情を注げない人間に、ペットを飼う資格なんてない!」

「湊(みなと)……?」

然は目を丸くした。驚いているのだ。無理もない。入学以来、彼は、こんなに感情をあらわにする俺を見たことがないのだから。

俺はとっさに謝った。

「ごめん、つい……」

「いや。ははは、ちょっとビックリはしたけど」

然はこっちの様子をうかがうように視線をやり 、

「湊、猫好きなんだ?」

「前に、飼ってた。もう、いなくなっちゃ ったけど……」

俺は話した。実家で飼っていたクロムのことを――。
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