彼女のすべてを知らないけれど
一般的なイメージとして、猫は人に対してクールに振る舞うと言われている。犬の方が飼い主に従順だから飼いやすいし、飼い主としても寂しさを感じない、と。
猫が飼い主に甘えるのはエサを求めている時だけで、その他の場面では自由気ままに振る舞う、と言う人もいる 。
しかし、クロムは違っていた。
俺が塞ぎこんだ時や、考え事をしている時など、クロムはそっと近づいてきて、こっちを見つめていた。
嬉しいことがあった時も、クロムはそれを祝うように俺のそばで嬉しそうに鳴き声をあげていた。
「小学校入学したくらいに飼い始めてから、クロムとはずっと一緒だった。
いつも見てもらえてる。どんな時も、クロムの存在があったから安心できたし、毎日が楽しかったんだ」
「……そっか。クロムのこと、大事にしてたんだな。
寂しいよな、家族同然だったのに、いなくなったら……」
意外だった。然がそんな風に言ってくれるなんて。
軽そうな彼のことだし、「そんなのそのうち忘れるって」とか、いい加減な対応をされると思っていたから。
しばらくの間、然は黙り込む。その後、ためらうようにこう切り出した。
「湊。俺んちに寄ってく?」