アウト オブ ザ ブルー
すると彼は私の視線に気づいたのか、こちらを向くとモップをかけていた手を止め再び微笑んだ。
「そういえば、さっきは何を聴かれてたんですか?」
急に目が合ったので緊張したが、とりあえず答えてみた。
「あ…、ダリル・ホールとジョン・オーツですけど…、知らないですよね?」
私がそう答えると、彼は目を大きく見開き、いきなりタメ口で話し始めた。
「知ってるよ!俺、洋楽超好きだし!!」
彼は気を許したのか、ベッドの上に掲げられた私の名前を確認すると、馴れ馴れしく聞いてきた。
「君…、みちるは彼らの歌の中でどの曲が1番好き?」
突然名前を呼び捨てにされ戸惑ったけれど、キーチとの思い出の曲をあげると、
彼は「そうなんだー。あの曲はボン・ジョヴィプロデュースなんだよね。知ってた?」などと楽しそうに語り始めた。
私が「ちょっと声が大きいですよ」と注意すると、彼は「しまった」とでも言うような顔をし、
急いでカーテンを飛び出すと、同室の他の妊婦達に謝罪して回った。
その慌てぶりがなんだかおかしくて、私は思わず吹き出した。