始まりの予感
エイジが戻って来たのは、午後の授業が始まる5分前。
「お帰り。どこ行ってたの?」
不機嫌そうなオーラを纏っているエイジに、チャレンジャーのエマが声をかける。
純粋にエマのこういうところはすごいと思う。
「花の水やりー」
そんなエイジの返答を、私は机の中から次の授業の教科書を出しながら聞いていた。
というよりも、席が隣だから嫌でも聞こえて来る。
「ノブ、数学の宿題やった?」
斜め前の席、つまりエイジの前に座るノブに話しかけた。エイジの顔は見ないように、極力ノブの方を見て。
「やったけど、シオやってないの?」
ノブの優しい口調に、心に優しい灯りがともる。
「うん、だから見せて?」
ノブの大きくてクリクリしてる目が可愛くて思わず顔が綻ぶ。
やっぱり、ノブは私の癒しだ。
「ノブー、俺水やりしてて暑かったから。先見せろ」
ノブが振り返りながら私に差し出したノートを、エイジが横取りしようと手を伸ばして来た。