§スウィート・ルージュ§~甘い秘密を召し上がれ~(完)

事務所のソファーで
隣同士に座り、手を握り合って
私の話を聞いていた直


「……」


私の頬をゆっくりと撫でた


「せっかく、咲和の前に現れることできたのに…」


「うん…大丈夫、私、待ってるから…

あ、ちょっと待っててくれる?」


私はあることを思い出し
ソファーを立ち上がり、給湯室へ向かい
冷蔵庫からあるものを持って戻ってきた


トレイの上にステンレスのボウルをかぶせたそれを
テーブルに置く


「直、開けてみて…」


直がボウルを取って開けた


「え…コレ…」


「ふふ、あのカフェのケーキと全く同じ、ってわけには
いかなかったけど…

近いものはできたとおもうよ、

昨日、急きょ、コンテストに出すケーキを変更しようと思って
試作したの」


「咲和…って、やっぱり、すげぇな…」


「ふふっ、まぁね…」


立っていた私に近づきフワリと抱きしめた


「あ! そうだ、直に聞きたかったの

なんで、8年も経ってるのに、私のコトわかったの?

て、どこで?いつ?」


そう、私は以前の会社は退社してるし

街で会ったとか、ってワケじゃないし…


「あぁ…」

直が私の身体からそっと離れ
私の顔を見る


「オレが初めて渡部さんと事務所に行っただろ

その2週間前かな、

咲和、駅の近くのウェディングサロンの
マネキンのディスプレイ見てただろ?」


「マネキン…

あ! あそこのマネキンのドレス、いつも
とっても素敵だから

あの時…」


「「スカイブルーのドレスが着せてあった」」


声が揃い、二人で笑った


「ちょっとストーカーだけど
咲和のあとをつけた

それからは、知っての通りだよ」


「そうだったんだ…」


テーブルのお皿の上の

ルージュのような紅いスウィーツを直が片手で持ち



くちびるを慈しむように

キスをし

甘い眼差しで

私を見つめ

呟いた



「どうしても

食べてみたかった…」



そして


もう片方の手で私の後頭部を引き寄せ

唇を重ねた



いつ、かつ乃先生たちが戻ってくるかもわからないけれど


直との甘い大切な時間を


手離したくはなかった…








私を見つけてくれて


ありがとう…






その週末 ―――――


直は、笑顔で旅立って行った…















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