§スウィート・ルージュ§~甘い秘密を召し上がれ~(完)

ようやくコンテストのレシピも出来上がり
試作品作りの段階になった

材料を計って切って混ぜて
煮込んで
オーブンの様子を見たり
盛り付けをしたり
仕事をしてる間はなにもかも忘れられる


コンコン

教室の奥で作業をしてると

ドアを叩く音がした


振り返るとニコリとこちらを見る直


もう、お昼?


「今、何時?」


中に入ってきた直に時間を聞く



「12:20かな

オレも江川さんと写真選びに時間かかったんだ」

「そうなんだ
じゃあ、行こっか」


出来上がった試作品は冷蔵庫へ入れ、エプロンを外して出る


外は、照りつける太陽の陽射しが強く思わず顔をしかめた

「咲和、めっちゃヘン顔ー」

私の頬を直の人差し指がつつく

「えー、だってー
紫外線凄いんだもんー」

日傘を忘れた私は
手をおでこにあて
陽射しをシャットアウトする


「ちょっと歩くだけだからいーんじゃね?」

「その、ちょっとがダメ
油断大敵なのー」

そうこうするうち
お店に着いた


席に案内され、
メニューを見る

「決ーめた、オレ、おまかせハンバーグ定食!」

さすが男子だわ


「んー、じゃあ私は、ラタトゥユ丼セットにしよー」


店内はランチの時間帯だから
満席
一足遅かったら座れなかった

「ね、咲和?」

テーブルに置いてた手に
直の手が重なると

「昨日、ホントになんともなかったの?」

「えっ?! 昨日?」


「うん、星川さんと…」


どう…しよう…
本当は、大アリなんだけど…

言う…べきなんだと思うけど…

「あ、うん
遅くなったから、心配してただけだよ、なんにもなかったよ

ごめんね、よけいな心配させて…」

心とは違う言葉を発していた…

「そっか…

咲和…」


直が、私の手を裏返し
ぎゅっと握る


「オレ、星川さんに咲和とのこと
言うつもりだから…」


「え?!」


「咲和が好きなこと、真剣に考えてる、ってこと…」


「…直…」


直…

直がこんなにも真剣に私のことを考えてくれてるのに…

本当のこと、なんで言えないの…?

「直…ありがとう
私、幸せょ…」

涙をこらえて俯いた


「バーカ、何泣いてんの?
全部オレに任せとけ、って

大丈夫だからさ」

繋いだ手をさらにぎゅっと
握ってくれた




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