秘密の2人
特色
新学期が始まり数週間が過ぎた。
蒼空は追試組のカラーになんとなく慣れてきた。
教室に入ればどこからかあいさつの声が飛んできて、席に着けば何気ない会話をする。
なんともいえない居心地だ。
そして、特進組と違うところがもう一つ。
「おはよう、スカイ。」
一紗だ。彼は蒼空にニックネームをつけて、『スカイ』と呼ぶようになった。
なんのひねりもなく、名前を聞いてすぐに決めたようだ。
「あ、おはよう。今日はなんだか少ないね。」
「そうだなー。仕事入ってる奴が何人かいるみたいだよ。ケリーも休み。」
「そうなんだ。」
追試組のほとんどの生徒は、何らかの事情があり通常の授業を受けることか難しく、出席日数の不足、試験日の欠席などが生じる。
なので、特別処遇対象者が半数以上占めているのだ。
その多くは『仕事』を理由としている。
芸能クラスではないがそれに近いものがあり、モデルや俳優の卵が多い。
金髪スレンダー女子のケリーもモデル業で、欠席する事が多いのだ。
蒼空のように病気による特別処遇は恐らくいない。
蒼空はその事は伏せて、『家庭の事情』という事にしている。
〔気を遣われるのは嫌だし、同情されるのも嫌。〕
蒼空が一年生の時に特進組であったことは、恐らくクラスの数人は気付いている。
だけど、それに関して追及されることはないし、特進組にいた時とは違い普通に接してくれるので、蒼空は自分の存在を感じることが出来るようになった。
〔特進組の時は珍獣扱いだったもんね…〕
二年生になってすぐは、蒼空が追試組になり少数の生徒がちらほらと追試組に覗きにきたり、廊下で蒼空の話をしているのを見聞きした。
しかし、そんな事は長続きせず、落ちぶれた生徒は優秀な生徒の記憶に長くは止まらなかった。
そのおかげというのもおかしい気がするが、蒼空は優秀な生徒の『嫉妬、敵対心』対象から外れたのだ。
「今日、生徒集会あるよ。午後いける?」
「そっか…。一紗君は?」
「俺は今日フリーだから」
「今日バイトないんだ?」
「うん。」
一紗は家庭の事情で、経済的な補助の為にバイトを掛け持ちしながら通学している。
一紗自身は、高校には進学せずに仕事を探すつもりだったようだが親に反対され、無理の利く学園に入学したそうだ。
学校とバイトを両立することは、仕事一本で生活するよりハードになったが、親の希望と自分の意志、両方共捨てることはできなかった。
入学してすぐに一紗は蒼空にそう話してくれた。
「じゃあ、私も今日は参加しようかな…」
「おう。じゃ、今日は早退すんなよ?」
「がんばるわー。」
蒼空は二年に進級してからも、時々体調不良を理由に授業を抜けることがある。
ほとんど別棟で休む為だが、たまに本当に我慢ができずに保健室で休む事もあり、そんなときは早退させられるのだ。
早退した理由も適当に誤魔化しているが、一紗は勘がいい。
恐らく蒼空の早退が体調によるものだと気付いているのではないかと蒼空は思っている。
〔今日は早退すんなよ…か…〕
蒼空は一紗の言葉を思い返した。
『負けるな、頑張れ』
そう言われている気がした。