秘密の2人
寄り道
一紗と一緒に歩いて駅ビルまで移動した。
いつもは一人なので新鮮な感じがした。
「何買うの?」
「…妹に頼まれた物。」
「妹さんいるんだ。」
「うん。」
答えた一紗の表情は少し眉間にシワが寄っていた。
その意味は目的地に到着して判った。
『GIRLS GARDEN』ー女子中高生に人気のファッション雑貨店である。
2人は店の前で立ち止まった。
「…ここ?」
「おぅ…」
「…なんか…キラッキラだね…」
店の外観はバラや宝石のモチーフでデコレーションされており、入るのに勇気がいる感じだ。
一応女子高生の蒼空でさえ躊躇してしまう店構えだ。
そんな店に男子の一紗が、お遣いとはいえ入店するのは酷な感じがした。
「何頼まれたの?」
「……これ……」
一紗がポケットからメモを出した。
蒼空はメモを受け取って、箇条書きにされた内容を見た。
『・バラモチーフクッション
・バラのコスメボックス
・バラのレターボックス』
「…バラが好きなのね。」
「しらねーけど、とにかく俺にはどれがそうなのかきっとわからない…」
「ですよねー。で?私が買ってきたらいいの?」
「ごめん!お願いします!」
一紗は手を合わせて頭を下げた。
「仕方がないなー。これ、何かの罰ゲーム?」
「そんな感じ。」
見た目とは違い人当たりが良く、どちらかといえば人に頼まれ事をされるほうが多そうな一紗だが、今回は無理なようだった。
蒼空はメモと財布を預かり入店した。
「いらっしゃいませ~」
店員から声がかかった。
20代前半であろう店員は、私服の上にショッキングピンクのエプロンをつけている。
エプロンにはキラキラのデコレーション風刺繍が施されている。
蒼空は少し引き気味になりながらも店員に声をかけた。
「あの…このメモに書かれている商品がほしいんですが…」
「あ、こちらの商品ですね。あちらにございますよ。」
店員に案内されて『バラの雑貨コーナー』にやってきた。
「こちらとこちらと、あとこれですね。」
店員はメモに書かれた商品を手際よく手に取った。
「ありがとうございます。」
「いいえ~。こちらは当店一番の人気シリーズなんですよ。もちろん他もおすすめですよ。もう少し店内をご覧になりますか?」
「いえっそれだけでいいです!」
「結構かさばりますが大丈夫ですか?」
「あ、外に荷物持ちがいますので…」
「あら、そうでしたか。いいですねー。」
店員は窓の外をちらりと見て、一紗の姿を確認した。
「彼氏?」
「えっ!?いえっ、友達です!」
「そうなの?怪しいなー。」
「!!?」
「ふふっ…私も学生に戻りたいなー。」
そう言いながら店員は商品を梱包した。
蒼空はこの手の会話に免疫が無いので、どう返事をしたらいいかわからなかった。
これ以上店にいると息が詰まりそうだったので、素早く会計をして商品を受け取り外に出た。
「ありがとうございました~。またお越しください。」
〔いや…もう二度ときません!〕
蒼空は心の中で返事をした。
外に出ると、歩道の手すりに腰掛けていた一紗が立ち上がり寄ってきた。
「悪い!どうだった!?」
「あったよ。はいこれ。」
蒼空は財布と買った品を渡した。
「サンキュー!助かったよ!」
「今度からは罰ゲームさせられないようにしてね。」
「…自信ないな~。俺、妹に甘いからなー。」
一紗は苦笑いした。
「そうなの?妹さん、何歳?」
「14歳。」
「じゃあ中2?」
「本来ならね。」
本来なら?
蒼空は一紗の言葉を聞いて質問を止めた。
蒼空の様子に気付いた一紗は優しく笑って話を続けた。
「妹、白血病で今闘病中なんだ。入退院を繰り返してて、今は家に帰って来てるんだ。生意気だけど、かわいいんだよなー。」
「白血病…。」
「そっ、骨髄移植のドナー待ちなんだけどなかなか…。」
蒼空は言葉を無くした。
「俺、こんなこと話したのスカイが初めてだよ。学校で話したら、確実に兄馬鹿扱いだよー。」
一紗は笑いながら話した。
「スカイ、このことは内緒な?」
「…わかった。誰にも言わないよ。」
蒼空はそう返事をすることしか出来なかった。
2人はこの後、たわいない話をしながらファーストフード店で時間を過ごし別れた。