秘密の2人
訪問
過ごしやすい季節が終わり、蒸し暑くなってきた7月。
あと数日で夏休みに入ろうとしていた学園の生徒達は、なんとなく浮き足立っていた。
夏休みの計画を立てては笑い、海や旅行の話をしている。
〔特進組ではこんな事はなかったなぁ…〕
勉強、勉強の特進組は、もちろん夏休みも強化学習が行われていたので、毎日のように学校に通っていた。
だが、今年は違う。
蒼空は、夏期休暇を利用して1週間程の検査入院をする予定なのだ。
最近は徐々にだが、体調が優れない日も増えてきた。
仕方が無い事だが、どうしても入院の事を考えるとうなだれてしまう。
「おっ、スカイ。猫背になってるぞ。」
「一紗君。おはよう。」
「おう、おはよー。」
にっこり笑って一紗が登校してきた。
今日もいつも通り、周りにも明るく接している。
「なぁスカイ、夏休みって何か予定ある?」
「えっ?」
「実はさ、妹にバラの雑貨を買ってくれたのはスカイだって話したら、お礼を言いたいって言っててさ。夏休み入ってすぐとか無理かな?」
「お礼って…そんな大したことしてないのに…」
蒼空は慌てて答えた。
「まぁそう言わずに。邪魔くさいとは思うけど、少しだけ話し相手してくれたら気が済むと思うんだ。」
話し相手…。それも私には高等技術だわ…。
「…私なんかと話しても面白くないと思うけど…。大丈夫かな?」
「全然ヘーキだよ!妹ときっと気が合うよ。」
一紗はニッカッと笑い、訪問日とその日の段取りをサクサク決めた。
「じゃっ、妹にも伝えておくよ!ありがとう、スカイ。」
「あっ、妹さんの名前って?」
「二葉だよ。」
そう言うと一紗は軽く手を振り、慌ただしく教室から出て行った。
蒼空はその姿を見送り、人生初の友人宅訪問に不安を感じていた。
〔私なんかが本当に女の子の話し相手できるのかな…〕
勉強ばかりしていたので、今流行の話題なんて知らない。追試組になってからは身体を休ませることが多くなって、益々情報を得る時間が少なくなっている。
ただ、一紗とは普通に話しができるので妹の二葉とも大丈夫かもしれない。
淡い期待を胸に秘めつつも、蒼空は訪問日当日まで不安と緊張と戦うことになった。