秘密の2人
蒼空の家の最寄り駅から、電車に乗って約30分。


一紗との待ち合わせ場所に到着した。


一紗はまだ来ていないようだ。


蒼空は一紗が来るまで隅に立って待つことにした。


そして、改札を出てそれぞれが目的地に向かって散り散りする姿をなんとなく見ていた。
今まで気にして見たことは無かったが、夏休みということもあるのか…やたらペアが多い。


〔暑いのに手繋ぐんだねー〕


仲良く恋人繋ぎをして歩く若者たちを見て、蒼空はこの暑い中手を繋いで歩く意味が理解出来なかった。


見てるだけで蒸し暑さが増した気がしたとき…


「ごめん!遅くなった!」


一紗が蒼空に駆け寄ってきた。


「一紗君、おはよう。」


「おう、おはよう!」


2人はいつも通り挨拶を交わした。


「走って来たの?」

「うん。暑い中待たせるの嫌だし…って待たせてしまったけど…」

「ううん、全然待ってないし大丈夫だよ。」


蒼空は手を振って答えた。


そうかと一紗は言いながらニカッと笑った。


「じゃ、家に案内するからついてきて?」

「うん。よろしくね。」


蒼空は一紗について行き、徒歩15分程で真田邸に到着した。


一紗の家はマンションで、7階に住んでいた。


「どうぞ。あんまり広くないけど、上がって。」

「お…お邪魔します。」


一紗に促されて、蒼空は家の中に入った。


「二葉ー!来たよ!」


一紗が奥の部屋に向かって声をかけると、廊下とリビングの間にある扉が少し開き、隙間からからちょこっと顔を覗かせた二葉がいた。


「こら、ちゃんと出てきて挨拶しろ!」


一紗が注意すると、二葉はトコトコと玄関まで小走りでやってきて、蒼空で立ち止まった。


「お…おはようございます。二葉です。」


二葉は少しもじもじしながら挨拶した。


14歳の二葉は、蒼空より背が高くスラッとしている。猫毛のような髪は少し茶色で、2つにくくって肩より少し下まで長さがあった。



「おはようございます。佐渡蒼空です。」


蒼空も挨拶をした。
朝までの緊張状態が嘘のように、すんなりと言葉が出た。


目の前でもじもじする年下の女の子を見て、蒼空はなんとなく安堵した。


「さ、上がって。こっちだよ。」

「うん。」


蒼空は一紗と二葉に付いてリビングに案内された。


リビングに入ると正面に大きな窓があり、外から明るい日差しを受けていた。


10畳程のリビングダイニング、入って右手にキッチンがあった。


「わぁ…明るくてなんだか開放的だね…」


リビングは昼間なら太陽光だけで充分明るく、7階なので窓の外には視界を遮る物がない。


「そうかな?ま、そこら辺に座って。」


一紗に促され蒼空はソファに腰掛けた。


リビングは入って左側に位置し、ローテーブルを囲むようにソファが配置されており、少し離れた壁際にテレビがある。


蒼空は友達の家にお邪魔したことが無いので、ついキョロキョロしてしまう。


「はい、どうぞ。」


一紗が麦茶を持ってきてテーブルに置いた。


「あ、ありがとう。」


蒼空はお礼を言いながら、ふと自分の手で持っていた紙袋をみた。


「あっそうだった!これ、少しだけどおやつにってお母さんが。」


蒼空は紙袋を一紗に渡した。


「えー?そんな気を遣ってもらわなくてもよかったのに!無理言ったのこっちなのに…」


「そんな大したものじゃないからもらって?じゃないと私が怒られるし。」


「そうか?じゃあ遠慮なく。ありがとうって言っといて?」


「うん。」


蒼空は無事に手土産を渡せたので一安心した。


そしてソファーにもう一度、今度は深く腰掛けた。


蒼空は麦茶を少し飲み、グラスを置くと明るい日差しが入る窓をみた。


(本当に開放的。いいなぁ…)


一戸建て住まいの蒼空は、空がこんなに近く感じたことがない。


気分が晴れないときにこの景色が見れたら最高だよね…なんて物思いにふけっていた時…。



「あの…蒼空ちゃん…」



消えてしまいそうなか細い声で蒼空は呼ばれた。


蒼空は聞き間違えたのかと思ったが、声のした方向をみた。


そこには二葉が。


「あの…この前はありがとうございました。バラの雑貨…」


「あぁ!そんなの全然!たいしたことしてないし!」


蒼空は今日お邪魔するきっかけになった事柄を思い出し、首を横に振った。


「ううん。私なかなか外にいけないし、ネットでは売ってなかったから…」


「いつもはネット通販で買うの?」


「うん。でも、実物見てないから届いてガッカリする事もあるよ。」



二葉は話をしながらちょこちょこと歩いてきて、ちょこんと蒼空の隣に座った。


「でも、バラの雑貨は全部可愛くてお気にだよ!」


「そっか、それは良かった。お兄ちゃんも勇気を出してお店の前まで行った甲斐があったと思うよ?」


「えっ?」


二葉が目をまん丸にして、一紗を見た。


「…バレたか!」


一紗がちょろっと舌を出して笑った。


「えっ?何?ごめん。内緒だったの?」


蒼空はうろたえた。


「だーいじょうぶだよ、別に隠してた訳じゃないし。言ってなかっただけ!」


一紗は自分と二葉のお茶と、お菓子を持ってリビングにやってきた。


「はい、お前の分。」


一紗は二葉にお茶を渡した。


「…お兄ちゃん、一緒にお買い物に行ってたの?」


二葉はお茶を受け取りながら聞いた。


「おぅ、店の前までな。中には入ってないぞ。」


「あれは男の子は入れないよね…」


蒼空は店を思い出し、クスクスと笑った。


「…デートだぁ…」


二葉がボソッとつぶやいた。


「…ん?」


蒼空は笑うのを止めて二葉を見た。

二葉の目はキラキラと輝いている。


「スゴーイ!!お兄ちゃんデートしたんだぁ!!いいなぁ!!いいなぁ!!」


「こら二葉、デートじゃなくて買い物について来てもらっただけだよ。」


「男の子と女の子とが2人でお買い物したら、それはデートだよ!!」


「いや…違うだろ…」


一紗は否定しているが、二葉は興奮気味で聞く耳を持たない感じだ。


2人の会話を聞きながら、蒼空は一紗が内緒にしていた意味がなんとなくわかった。


佐渡家でもよく似た光景をみるときがある。


〔あー…一紗君に悪かったかなー…〕


蒼空は2人の会話が落ち着くのをお茶を飲みながら待つことにした。



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