秘密の2人
第8章

検査結果


真田邸を訪問してから数日後、蒼空は予定通り検査入院した。



嫌で嫌で憂鬱だったが、逃げるわけにもいかない。



苦手な採血ももちろんあり、やっぱり気分が悪くなってベッドに伏せった。



今回は前回と違い体調が徐々に悪化していたので結果を聞くのが怖い。



蒼空は結果次第で今の生活環境が変わるのではないか不安で仕方がなかった。







検査入院して6日目、主治医の宮野医師から話があった。



「こんにちは。検査お疲れさまでした。」


母親と2人で診察室に入ると、宮野医師は優しく話しかけてくれた。


「さて、今回の検査の結果なんだけど…」


医師の言葉で、蒼空は身体に力が入った。

それに医師が気付いたのか、


「そんなに心配する結果では無かったよ。」

「本当ですか!?よかった~!」


答えたのは母だ。

蒼空もホッと安堵した。


「生活環境を見直したのね。学校でしんどくなることはないかな?」


医師は2人の様子を微笑みながら話した。


「…大丈夫です。楽しいし。」


蒼空は答えた。


医師は蒼空の顔をじっと見て、頷いた。


「じゃあ大丈夫ね。ただ、無理は禁物よ?今より身体に負担のかかる行動は絶対にダメだからね。」

「はい。」


蒼空は今の生活が続けることができるのならそれでよかった。


診察の結果、今日退院できることになり、蒼空は先に診察室を出て病室で帰宅準備をすることにした。

母は診察室に残り、医師ともう少し話をすることになった。





「…佐渡さん。蒼空ちゃんなんですが…。本人さんにはそんなに心配しなくもいいと言いましたが、続きがあります。」


医師の言葉に母親は表情を曇らせた。


「良く…ないんですか?」

「今すぐどうにかしないといけない状況ではないのですが、初診の時と比べると悪化しています。」


医師は母親の目をジッと見ながら話した。


「生活環境を改善していただいて投薬治療をしているのにも関わらず、悪化するのが予想していたよりも早い印象があります。」

「そうなんですか…」


母親は答えながら、最近の蒼空の生活を思い出していた。


確かに、学園から授業を欠席し保健室で休んだと連絡が来ることがある。

あと、欠席はしているが保健室には来ておらず、帰宅していないかと連絡が来たこともある。

蒼空が大好きだった勉強を後回しにして、身体を休ませるということはわかっていた。

保健室で休むと記録が残る。
学園側に管理されると、体調不良が増えていることを把握され、回数が規定枠を越えると親に通知されるのだ。
そうなると原因追究の為、蒼空の場合は病院受診が必須になり、その結果を恐れての行動だろうと考えていた。


ただ、蒼空本人からはそんな話は一言も聞いていない。


親なら口うるさくしてでも問いただして、体調の良し悪しを確認しないといけないのだが…あえてしていなかった。


蒼空なりに何か考えがあっての行動で、本当に何かあれば言ってくるだろうと思っていた。


でも、もしかしたらそれは無いのかもしれない。


あの子の中で学園生活は、周りが考えているよりも大切で意味のある事なのかもしれない。


例え命を削ってでも行く理由があるのかもしれない…。




「初めは高校卒業まで様子を見ようかと思っていましたが、このままでは厳しいかもしれません。」


医師の言葉に母親は我に返った。


「それは…」


母親は表情をこわばらせた。


「将来的に手術をしなくては…蒼空ちゃんの心臓は持ちこたえることができません。」


母親は医師の言葉に絶句した。


「手術の事は色々と問題がありますが、もちろんこちらでサポートさせていただきます。ただ本当に今すぐのことではありませんが、定期検査の期間は短くして、しっかり診させていただきますね。」


「なにか今後、気をつけないといけない症状が出てくることはありますか?」


母親は今の蒼空から、そこまで病状が悪化しているとは思っていなかった。
本人の申告以外でなにか目安がなければ、きっと蒼空はこれからも何もない振りをする。


「一番は蒼空ちゃんがしんどいとか、何かいつもと違う症状を訴えてくることです。あとは周りから見て息苦しそうとか、浮腫があるとか…ですかね。」


「そう…ですか…」


蒼空からの訴えは選択肢から外すことになるだろう。

今の蒼空が良くない状態である事を本人に言い、無理をしないように話したら一番いいのだろうが…それは逆効果になるかもしれない。


母親はこの日、蒼空の父親と今後の対応を相談した。

蒼空には今回の結果は言わず、家庭では親が細心の注意を払い、学園生活は学園側に協力してもらい何か変わった事があれば連絡を入れてもらうようにした。



母親は蒼空の気持ちを尊重してあげたい気持ちと、命の重さを天秤にかけて、全身全霊でバランスをとっていくことになったのだ。
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