秘密の2人
秘密の始まり
カチャ・・・バタン・・・。
バサッ!
日差しが暖かくなってきた4月中旬。
蒼空は物音で目が覚めた。
なんとかごまかしごまかし過ごした半年。
蒼空は高校3年生になった。
あまりにも授業欠席が多く、本当に病欠なのか家族も学園も把握できない状況だったので、進級できるのかどうかは微妙だった。
しかし入学時の好成績、病気により万年追試組になった後も成績は上位にとどまっていることなど、学園側にとってはマイナスになることがほとんどないことから3年への進級が許可された。
目を開けた蒼空はゆっくりと瞬きをした。
いつものように資材室でウトウトしていた蒼空は、自分が今どこにいるのかすぐには思い出せなかった。
「はぁぁー…」
隣の部屋から誰かのため息が聞こえてきた。
「ったく…あの野郎…資料作る気全くねぇ…」
その声に蒼空は一気に目が覚めた。
(駒居くん⁉…やばい!)
優羽が生徒会室にやってくるまでにいつもなら資材室を後にしていたが、今日は起きることができなかったのだ。
そう気付きはしたが、今更どこにも行けない。
蒼空は仕方がなくそのままソファに休んだ。
(見つかった時はその時だね…)
優羽がすぐ隣にいるのにも関わらず、蒼空はまたウトウトとしだした。
すぐに身体が休もうとする。
それほど蒼空の体調は悪化しているのだ。
「カチャ…パチン」
ウトウトしてどれくらい経ったのだろうか・・・。
物音が近付いたような気がした。
蒼空はモソッと動き身体を起こした。
「佐渡蒼空…」
その声に蒼空はまた意識をハッキリさせた。
そして、声がした方向をみた。
そこには驚いた表情のまま立ち尽くす優羽がいた。
じっと蒼空を見る優羽と目が合った。
蒼空はとうとう見つかってしまった衝撃で、目をまん丸にした。
そして、どういう風にここにいる経緯を話そうかと考えた。
いつかはこんな日がくるだろうと予測はできていたので、頭の中でシュミレーションをしたことがある。
(だけど…頭の中真っ白だわ…)
いざその時がきた今、シュミレーションをした意味はなくなった。
2人の間に実際は数秒だったのだろうが、数十数分に感じる沈黙した時間が流れた。
その沈黙を破ったのは蒼空だった。
「おはよー…会長ぉ。今何時?」
この状況を作ったのは、自分の行動によるもの。
ということは、それをなんとかするのは自分の責任。
蒼空は半パニックになりつつ、頭の中で答えをだした。
そして、何事もなかったように優羽に声を掛けたのだった。
「…おはようございます、佐渡さん。今は1時を過ぎたところですよ。」
優羽がニコリと笑いながら答えた。
それが逆に怖い気がした。
しかし引くことはできない。
蒼空は冷静を装って会話を続けた。
「1時かぁ~…。」
蒼空は背伸びをした。
「…何故ここに?」
優羽から核心を突かれた質問が飛んできた。
蒼空はおそらくテストでもないだろうと思うほど、頭をフル回転させたが答えが出ない。
「ん?何故ここに?う~ん…」
合槌のような返事をしつつ、ちらりと優羽を見た。
すると、いつもにこやかで冷静な彼の表情とは違い、焦りのような顔色の悪さを見せていた。
(ああ・・そうだよね。そりゃ焦るよね・・)
誰にも見られない、聞こえない場所で心の声を言葉に出していたのに、まさか聞かれていたなんて思いもしないよね。
蒼空は罪悪感のようなものを感じ、とにかく今ここで何をしていたかは正直に答えようと思った。
「眠たかったから寝てた」
率直な返事をした。
この答えで彼は今までと同じ優等生でいることができる。
蒼空は逃げ道をつくったつもりだった。
しかし・・・
「はぁ?」
優羽から帰ってきた返事は予想を覆した。
(ええっ!?)
蒼空は目を見開いて、優羽を見た。
優羽はしまったという表情になり、普段の彼からは想像できない姿を見せた。
蒼空はそれを見て、なんとなく得した気分になった。
誰も見たことのないであろう彼の姿を見ることができた、優越感のようなものだろうか。
そう思うと、蒼空は自然と言葉を発した。
「いいねぇ~、会長の裏の顔。日頃の会長からは想像できない悪態ぶりだね~。」
優羽の裏の顔を知っていることに完全に触れた。
「…っ!!!!」
優羽の表情は険しくなった。
しかし、蒼空は続けた。今更やめられない。
「あの先生、確かに声大きいし、態度もでかいよね~。」
先程聞こえた部分に同調した。
そして、顔面蒼白になった優羽に向かって、蒼空はにっこり笑った。
「仮面優等生君、諦めてね♡」
彼の仮面が崩れたのがわかった。