秘密の2人
2人きりの時間
2人はしばらく離れなかったが、優羽が蒼空の体調を気遣ってベットに休ませた。
蒼空が横になったのを確認してから、優羽はベットの淵に座った。
「わざわざ…来てくれたの?何か用があった?」
蒼空はまだ恥ずかしいので、掛け布団で顔の半分程を隠しながら聞いた。
「え?…あぁ。学校から預かった手紙を届けに。」
それを口実に、いそいそと会いに来たことは黙っておいた。
気持ちを伝えても、蒼空のことが気になってどうしようもなくなっていたことはなんとなく恥ずかしくて言えない。
一紗の前で仮面を被る余裕がなくなるほど、それだけ自分の中で彼女への気持ちが大きくなっていたのだ。
今更蒼空への思いの大きさに気付き、今度は優羽が自分のとった言動を思い出し、少し頬を赤らめた。
「?そうなんだ。なんだろう?」
蒼空は優羽の表情の変化に気付かなかったようだ。
「さぁ。お母さんに渡したから、後で聞いてみて。」
「うん、わかった。」
蒼空は目だけしか見えないが、ニコッと笑ったのがわかった。
それを見て、優羽もふっと笑った。
「………〜っ!!」
蒼空が無言のまま、布団で完全に顔を隠した。
優羽の今までとは違う表情に悶えたようだ。
「どうした?苦しいのか⁉︎」
「え⁉︎ううん‼︎大丈夫‼︎」
蒼空は慌ててまた顔をひょこっと出した。
「本当か?」
「うん、本当!」
蒼空はへへっと笑った。
優羽はホッとため息をついた。
「ありがとう。心配してくれて。」
蒼空は優羽が自分の体調を気にかけてくれているのがわかった。
「いや…」
優羽は一言だけで応えた。
「あと一ヶ月頑張ろうと思ってたんだけど…どうもダメで…」
今度は蒼空がため息をついた。
「もう2度と優羽ちゃんに会えないかと思ってたから…。来てくれた時、不覚にも泣いてしまったよ。」
蒼空はペロッと舌を出して笑った。
「卒業式もやっぱり無理なのか?」
あれだけ学園を卒業することに執着して、ここまで頑張ってきた蒼空の事を思うと…。
身体が一番なのはわかっているが、願いも叶えてあげたい。
「卒業式かぁ。どうだろう…。参加したいけどなぁ…」
「そうか。」
「卒業式が早くきてほしいと思っている反面、卒業式が終わると優羽ちゃんと会えなくなるなぁって思うと…嫌だなぁ。」
蒼空は今度は頬をプクッと膨らませた。
(あぁ…なんでそんな可愛い顔するんだ…。)
優羽は、横になって休んでいる蒼空に抱きつきそうになる衝動を必死で抑えた。
「俺、可能な限り卒業しても会いにくるよ。」
「えぇ⁉︎」
蒼空は目を見開いて驚いた。
「なんでそんなに驚くんだ…」
「えっ…いやっだって…、優羽ちゃん大学生になるじゃない….。ますます忙しくなるだろうし、大学も遠いでしょ?」
蒼空は、優羽が生徒会室で自主学習をしていた時に、志望校の資料が置いてあったのを見ていたのだ。
その大学は蒼空の自宅からはかなり離れており、通うのは困難な距離だ。
優羽は蒼空の言葉で、彼女の考えを察した。
「あぁ、俺…実は志望校変えたんだ。」
「えっ⁉︎どうして⁉︎」
優羽のまさかの発言に蒼空は驚きを隠せなかった。
「…前…将来の事について話しただろ?」
「あ…うん。生まれた時から弁護士になるために勉強してきたって…」
「そう、それ。これからは自分の為に生きて行こうって決めた日、帰ってから初めて親に自分の考えを話したんだ。」
「そうなんだ…。」
あの日は本当に色々あった…。
優羽の人生が大きく変わった一日だったのだ。