秘密の2人
応援
生徒講堂に向かう卒業生で、通路はごった返していた。
一紗と蒼空は一緒に並んで歩いていたが、横からトントンと肩を叩かれた。
蒼空は一紗を見た。
すると、一紗は携帯電話で誰かと話をしていて、目線だけを蒼空に向けていた。
「?」
蒼空がなんだろう?って顔をしたら、一紗が携帯電話を差し出してきた。
「はい。スカイに電話。」
「えっ⁉︎」
突然の事で戸惑う蒼空に、一紗は無理やり携帯電話を握らせた。
そして、耳元に携帯を持って行くようにジェスチャーで促した。
たじろぎながら蒼空は携帯を耳に当てた。
「もしもし?」
携帯を持っていない蒼空は、携帯を手に持つこと自体慣れていない。
その上、相手が誰かわからないのですごく緊張していたが、電話の向こうから聞こえた声で力が抜けた。
「蒼空ちゃん⁉︎二葉だよー‼︎」
「二葉ちゃん⁉︎」
蒼空が2年生の時、二葉は治療の為に入院し、それきり会うことができていなかった。
経過は順調で、自宅療養をしていると一紗からは聞いていたが、お見舞いに行く前に蒼空の体調が悪化してしまい、今度は蒼空が自宅療養になってしまったのだ。
「久しぶり‼︎今日もしかしたら話できるかもって、楽しみにしてたんだよー‼︎」
「そうなんだ!体調はどう?」
「大丈夫だよ!今は遅れた分を猛勉強してるよー。頭悪いから大変だよっ。」
顔は見えないが、声を聞いているだけで二葉の表情が見えてくるようだ。
「蒼空ちゃんはどう?学校休んでるって聞いたけど…」
一紗から聞いていたのだろう。一紗は以前から勘付いていたが、病気のことはハッキリとは伝えていなかった。しかし、長期に休み出したことにより、クラスの殆どは蒼空の欠席理由が体調によるものであることを察していた。
「うん、まあまあかなー?」
「そう?ならいいけど…」
年下の二葉だか、闘病生活を経験したせいか精神年齢は恐らく同世代よりは高い。
蒼空は年下と話をしている感覚が全くない。
「今日で卒業だね。卒業後はまた会える?」
二葉の質問に、蒼空は一瞬固まった。
「蒼空ちゃん?」
「あ…ごめんごめん、そうだねー…会いたいけど、もうしばらくは無理かも…」
蒼空の声のトーンが下がった。
それを二葉は聞き逃さなかった。
「蒼空ちゃん!負けたらダメだよ‼︎」
「え?」
蒼空は二葉の言葉に目を丸くした。
「私が頑張れたんだから!蒼空ちゃんも大丈夫だよ!」
蒼空は返事ができなかった。
(なんて子なんだろ、二葉ちゃんは。)
蒼空は涙腺が緩みそうになるのを引き締めて、深呼吸をした。
「うん、頑張るよ。」
「うん!」
二葉の元気な返事に笑みがこぼれた。
「元気になったら会いに行くから、女子会しようね!あと、恋バナも。」
「うん!楽しみにしてるよー‼︎」
蒼空は二葉の声に背中を押され、大きな勇気をもらった気がした。