秘密の2人
行方
式典が終わり、卒業生達は各々学園で過ごす最後の時間を楽しんでいた。
しかし、優羽は他の卒業生とは違い、式典後が忙しい。
学園に関わったPTA役員、来賓の方々に順番に卒業生代表として挨拶に行かないといけないのだ。
「駒居!あちらにPTA会長さんがいらっしゃる!早く行きなさい!」
優羽に声をかけたのは、生徒会担当の教師だ。
生徒会担当の教師としてやるべき仕事を何もしない、肩書きだけの教師。優羽の中の評価だ。
その教師が、PTAやお偉いさんが関わると態度が変わる。
「わかりました。すぐに行きます。」
優羽は仮面の笑みで返事をした。
(偉そうに言いやがって。俺に命令するな。)
優羽は心の内でイラつきを言葉にした。
そして、その言葉を口に出した事で、蒼空との時間が交差し出した。
優羽はふと、10ヶ月前に資材室で蒼空に遭遇した日を思い出した。
(まぁ…ある意味、きっかけをつくったのはあの教師か。)
肩書きだけの教師でも、稀に役に立つんだな…なんて思いながら、PTA会長の元へ向かうために足を踏み出そうとした時、優羽は左袖をクンッと引っ張られ、踏み止まった。
優羽は引っ張る主を見て、息が止まりそうになった。
「ごめんなさい、忙しい時に…」
「…っどうしたんですか⁉︎」
袖を掴んでいたのは、蒼空の母親だった。
母親の表情を見て、優羽は身体を強張らせた。
「蒼空…見なかった?」
そう問う母親は顔面蒼白になっていた。
「いえ…。いないんですか⁉︎」
「えぇ。式の後、お友達に会いたいって言うから、20分後に裏門で待ち合わせしていたんだけど…。もう40分以上経つの。」
優羽は言葉を失った。
2人の考えは恐らく同じだ。
優羽の頭の中では最悪の考えが駆け巡り、血の気が引くのがわかった。