秘密の2人
旅立ち
「そーらー!荷物はこれで全部なのー⁈」
「うん!あとはカバンだけだから大丈夫だよー!」
蒼空が日本を発つ日。
沢渡邸の前には自家用車が停まり、スーツケースが積み込まれていた。
「準備は大丈夫か?そろそろ出発しないと飛行機の時間が危ないぞ。」
「そういうお父さんは準備オッケーなの?」
「おぅ、なんにも準備するものはないからな。」
いつもは忙しく働いている父親だか、今日は蒼空と母親が旅立つので、送迎は父親の役目になったのだ。
必要なものが車に積み込まれ、車は空港に向かって出発した。
BGMは母親お気に入りのアップテンポの曲が流れている。
「お父さん、本当に一人で大丈夫?」
助手席に乗っている母親が声をかけた。
「大丈夫だよ。なんとかするから心配しないでいっておいで。」
父親は母親と同じ歳で、少し白髪混じりの短髪、背丈は180cm近くある。蒼空は母親に似たのだろう。
夫婦はいつも友達のように話をし、お互いがお互いを思いやり、支え合う存在として大切に想っているのが伝わってくる。
蒼空は後部座席から、2人の後ろ姿を見つめた。
この仲のいい2人を、自分が裂いてしまう。
申し訳ない気持ちで押しつぶされそうになっていた。
「蒼空もな?お前はとにかくがんばるんだぞー?」
父親は蒼空が何と無く沈んだのに気付いたのか、後部座席に向かって声をかけた。
「うん!」
蒼空は元気に返事をした。
「そうよー?元気になってもらわないと、優羽ちゃんを義理の息子にできないからねー?」
母親は、また突拍子もないことを言った。
「ちょっと⁉︎何言ってるのよ‼︎」
「えー?違うの?お母さんはそれを楽しみにしてるんだから。」
蒼空は慌てて怒鳴ったが、母親はけろっとしている。
「……お父さんはまだ会ったこともないし、そして認めてないぞ。」
父親はムッとした声で割り込んできた。
「あら?お父さんヤキモチ?やーねー、父親ってややこしいんだから。」
「そういうもんだろ、父親は。」
ケラケラ笑いながら話す母親の横で、ため息をつきながら父親は答えた。
「とにかく、優羽ちゃんは男前なんだから。全てにおいて完璧男子よー?」
「そんな男いるもんか。絶対何か欠点があるはずだ。」
「そうかしら?」
2人は蒼空をそっちのけで、勝手に話を続けているうちに、目的地の空港に到着した。
「お父さんは車を停めたらいくから。」
「はーい。」
蒼空と母親は荷物を降ろし、搭乗手続きへと向かった。
「お父さんも父親ねー。」
コロコロとスーツケースを引きながら歩いていると、母親がクスクスと笑いながら話しだした。
「もー、お父さんをからかうのやめなよね‼︎」
「あら、からかってるんじゃなくて、心の準備をさせてるのよ。」
「心の準備?」
なんのよ?
蒼空は何のことかわからないって顔をした。
それを見て、母親はクスッと笑った。
「さぁ、早く手続きしなくちゃ!行くわよ〜!」
「はいはい。」
蒼空は母親のペースに巻き込まれながら手続きカウンターを目指した。