秘密の2人
第1章
優等生
「おーい駒居ぃ。生徒会議の資料はできたかー?」
学校の騒がしい昼休み中でも筒抜けの、通る声で呼ばれたのは生徒会長の駒居優羽だ。
呼んだのは生徒会担当の教師。
資料片手に廊下を歩いていた優羽は、教師の方へ振り向いて、
「この通り。今からコピーして綴じます。」
と、軽く腕を挙げて資料をパサパサと振った。
「おー!さすがだなー!よろしく頼むぞ。」
「わかりました。」
教師はそのまま手伝う素振りも見せずに去っていった。
その姿を優羽は笑顔で見送った。
梅ヶ丘学園高校3年、駒居優羽〔こまいゆう〕。
3年A組、生徒会役員会長、成績は常に首位、スポーツ万能で文武両道の完璧な優等生である。
学園はA組からF組の6クラスに分かれており、学力レベルで毎年クラス替えになる。
A組が最もレベルが高く、通称《特進組》と呼ばれている。
A組で学びたくて遠方から通う生徒もいるが、学力レベルと競争率が高く難易度はかなり高い。
そんなクラスの、しかも常に成績は首位、さらに生徒会長の優羽は、周りの生徒から一目置かれる存在になっていた。
廊下に立っているだけで視線を集めてしまう優羽だが、本人は気にする素振りも見せずに、教師がいなくなったのを確認してから目的地へ移動しだした。
トンッ…!
「あっ!」
「…っと、失礼。大丈夫ですか?」
渡り廊下から歩いてきた女子生徒とぶつかったのだ。
相手が優羽であることに気付いた女子生徒は慌てふためき、周りの生徒たちもざわめいた。
「あのっ…!ごめんなさい!」
女子生徒が頭を下げて謝った。
「いえ、頭をあげてください。僕が前を見ていなかったのが悪かったんです。」
恐る恐る頭を上げた女子生徒に、
「すみませんでした」
と優羽は頭を下げた。
そして驚いて固まっている相手に向かって、
「それでは」
と、にこやかスマイルで声をかけてその場を後にした。
…にこやかスマイル→別名《悩殺スマイル》。
多くの女子生徒がこれにより、優羽の虜になってきた。
遠巻きに見ていた時の優羽の近寄り難いイメージが崩れ落ち、そして今日もまた1人虜になった。