秘密の2人
ファーストコンタクト
高校入試の結果を学校で聞いた。
蒼空ともう1人、トップ入学者がいること。
蒼空は今まで自分と同じ様に勉強に取り組み、同じレベルの『ライバル』に会ったことは無かった。
高校は片道2時間かかるが、有名進学校を選んだ。
蒼空は中学までは公立学校に通い、独自の学習方法と努力で進学校を受験した。
勉強に魅力を感じてから、常に最上を目指してきた。
高校では今以上の魅力を求め、親に頼んで進学校を受験したのだ。
しかし、学習をする事により知識を得ていく充実感はあったが、その先に何があるのかは考えていなかった。
高校もただひたすら1人の世界で過ごすつもりでいたのだ。
まさか高校で『ライバル』に出会えるなんて思いもしなかった。
入学して初めて会ったその人は、蒼空の想像とはかけ離れていた。
入学式で新入生代表の挨拶をする優羽は、背が高く、ややブラウン系色をした髪、切れ長の目のクールな雰囲気を醸し出していた。
挨拶をする姿を見ただけで、優羽の虜になった者は多い。
入学式の時点で、色々な意味を含めて優羽は注目の的になった。
だが、注目の的になったのは蒼空も同じだ。
受験で最難関の特進組は9割が男子である。そんな中でトップ入学者が小柄の女子である事は、充分注目される要因になった。
蒼空と優羽は隣の席で会話をする機会はあるが、周りからの視線が強く、なんとなく必要以上の会話はしないようになった。
〔会話しなくていいのは助かる…〕
蒼空は勉強は出来るが、周りとのコミュニケーションは大の苦手だ。
苦手だから素直に向き合える勉強ばかりして、益々コミュニケーションを疎かにしている部分もある。
そんな蒼空が唯一、自分から声をかけたのが優羽だった。
入学式が始まる前、教室に集まって席順を確認するときに、隣が優羽であることを知った。
新入生代表の挨拶をトップ入学者がする事が代々の決まりだが、今年は2人該当した。
入学前に蒼空と優羽の双方が、それぞれの出身中学校でお互いの名前と『ライバル』の存在を知ったのだ。
新入生代表の挨拶は、人前なんかとんでもないと蒼空が即断ったので、優羽が快く引き受けてくれたと聞いていた。
その事を思い出した蒼空は席に着き、
〔何か…お礼とか言うべき?〕
コミュニケーション不足の蒼空には、難しい問題を考える気分になっていた。
そんなとき、優羽が隣にやってきたのだ。
〔どうしよう!!答えが見つからない!〕
焦った蒼空は答えが見つからないまま、『ライバル』を斜め下から見上げた。
優羽の横顔を見て、蒼空は固まった。
〔なんか…イメージとちがう!!〕
私みたいに勉強ばかりして、根暗な感じを想像していたのに…。
蒼空は思考回路が停止したかのように、優羽を見つめた。
そんなとき、視線を感じたのか優羽が蒼空を見て、2人目が合った。
「…おはよう。よろしくね…。」
蒼空は言葉が見つからず、とにかく挨拶をした。
優羽はにっこり微笑んで、
「おはよう。よろしく。」
と答えてくれた。
これが蒼空にとって唯一の自発的な会話だった。