秘密の2人
蒼空が精密検査の結果を聞いたのは、入院してから4日目の夕方だった。
母親と一緒に、病棟内にある診察室に行くと宮野医師が待っていた。
「こんにちは。検査お疲れ様でした。」
医師は優しく話しかけてきた。
「こんにちは…」
蒼空は結果を聞くのが憂鬱だったが、覚悟は決めていた。
何も無かった事を期待していたが、昨日から母の様子がおかしいことに気付いていたのだ。
恐らく、既に医師から結果を聞いたのだろう。
母は浮かない顔をしていた。
蒼空は宮野医師と向かい合わせで座った。
「蒼空ちゃん、検査の結果なんだけどね…やっぱり勉強のし過ぎだけが原因じゃなかったの。」
蒼空は無言で頷いた。
「蒼空ちゃんの心臓は他の人より少し弱くて、身体もすぐにしんどくなることがわかりました。」
「…心臓…」
「そう。でも、今すぐどうにかなる状態じゃ無いからね?ただ、薬を飲んで心臓に負担がかからないようにしないといけないのと…もう一つ。」
宮野医師は蒼空をジッと見つめた。
蒼空の目は不安を隠しきれていなかったが、その奥に心の強さが見えた。
〔この子には自分を受け入れる覚悟がある〕
宮野医師はそう感じた。
「勉強なんだけど…今までどんな感じでしてたのかな?」
医師は蒼空に聞いた。
「勉強?」
「そう。蒼空ちゃんの心臓は、できるだけ負担をかけることを避けたいの。激しい運動はこれからはできなくなるし、あとしっかりと身体を休める事が重要になるの。」
医師は続けた。
「梅ヶ丘で頑張ってるって事は、勉強を頑張り過ぎて睡眠時間が少ないんじゃないかな?」
蒼空は朝早くに起きて、夜遅くまで勉強するスタイルで、平均睡眠は4時間程度だ。
蒼空は動揺を隠しきれなかった。
医師は恐らく母に、事前に蒼空の生活リズムを確認していたのだろう。
蒼空の返事を待たずに話を続けた。
「今のままの睡眠時間や生活スタイルでは、身体にかかる負荷が大きすぎるの。」
「勉強をやめろって事ですか!?」
蒼空は医師に噛みつくように聞いた。
勉強を取り上げたら何の取り柄えもなくなる…。検査の結果が出たらまた出来ると思っていた。
勉強が身体の負担になると言われるなんて、思ってもいなかったのだ。
「勉強をやめろとは言わないけど、蒼空ちゃんの身体の負担にならないようにしないといけないってこと。今の状態はよくないわ。」
宮野医師は答えた。
「これからは定期的に通院してもらわないといけないし、検査もしないといけないの。」
蒼空はショックを隠しきれなかった。
「勉強は大事だし、梅ヶ丘で頑張ってる蒼空ちゃんはすごいと思う。でも、それは命あってのことだよね?」
蒼空は宮野医師を真っ直ぐ見つめた。
医師は優しく微笑んだ。
「人生は勉強だけじゃない。この機会に、今までの自分とは違う自分を見つけてみたらどうかな?きっと世界が変わるよ。」
拒否しようの無い現実に蒼空は心を打ちのめされたと同時に、医師の言葉に刺激を受けた心がざわめき出したのを感じた。