秘密の2人
蒼空は優羽に釘付けになった。
今は2校時目の最中で、生徒が学年棟以外に居るはずがない。
蒼空のように授業をサボっていない限り…。
〔…えっ…えー…?〕
優羽は超が付くほどの優等生で、教員、生徒共に信頼され、何をさせても完璧だ。
学園の優良模範生みたいなものなのだ。
その優羽のサボりを、一体学園の誰が想像出来るのだろう。
恐らく誰一人いない。
蒼空自身も、今見ている光景が信じられなかった。
衝撃を与えた当の優羽は、見られている事には全く気付かず小窓で作業を続けていた。
小窓からキラキラ光る物…
蒼空は更に我が目を疑った。
口を塞いでいた手は自然と力が抜け、半開きになったままの口が露わになった。
「……シャボン玉…して…る…?」
声にならないような声量で蒼空は呟いた。
小窓から優羽はシャボン玉を作り出していたのだ。
〔なんで…シャボン玉…?〕
優羽の不可解な行動に、蒼空は唖然としていたが…
いつの間にか優羽と、優羽が作り出すシャボン玉から目が離せなくなっていた。
〔……きれい……〕
優羽たちをみているうちに、それがまるで絵から飛び出してきた一場面のように感じた。
「……かっこいいー…」
蒼空の口は勝手に動いていた。
「…………ん?」
蒼空は無意識に発した自分の言葉を、頭の中で反芻した。
「……かっ…!?」
蒼空は慌てて大声を出しそうになった口を、もう一度手で塞いだ。
〔かっこいいとかっ…!!何言ってんの私!!〕
自分の発言に衝撃を受け、胸がドキドキしたのがわかった。
頬を赤くしながら、蒼空は優羽を見つめた。
見つめたまま数十秒。
「………うん。やっぱりかっこいい。」
蒼空は改めて確認した。
〔女子達が騒ぐ意味がなんとなくわかったかも…〕
勉強以外に興味を持ったことが無かった蒼空が、生まれて初めて異性を意識した。
病気が発覚してから、人生が楽しくなくなってやる気を無くしていたのに、今は感じたことの無い高揚感で胸が満たされている。
『勉強だけが人生じゃない』
宮野医師に言われた言葉を思い出した。
〔そうだよね…〕
蒼空は勉強だけの人生から抜け出し、新しい自分を見つけてみようと決意した。