秘密の2人
蒼空は別棟には一度も行ったことがない。
全ての授業を学年棟で受けることができるので、大半の生徒は別棟へは行く理由がないのだ。
渡り廊下の距離も結構あり学年棟から遠いので、わざわざ休み時間に探索する事も、お昼休みにお弁当を持ってランチする事もない。
学校案内にも、別棟の配置図や名称は詳しく明記されていない。
〔何があるんだろう?〕
蒼空はワクワクしながら、とにかくこの前優羽を見た3階に向かった。
階段をゆっくりと昇り、3階に到着した。
人の気配は無く静かだ。
蒼空は左右をみて、部屋数の多い昇って右側の廊下を歩き出した。
別棟は外観では判らなかったが、学年棟より造りが古い。
北向きなので日差しが少なくて薄暗く、余計に印象的に古く感じるのかもしれない。
どうやら別棟は旧校舎のようだ。
〔それにしても…何があるんだろう?〕
蒼空は部屋の前を通る度に扉に手をかけてみるが、鍵が掛かっていて開かない。
〔残念…〕
優羽がいるか確証もないし、諦めて帰ろうかと思いながら奥に進んだとき、一つだけ部屋に灯りが点いていることに気付いた。
蒼空は足音をたてないように、灯りの点いた部屋の前まできた。
校長室のような重厚感のある木の扉で閉められたこの部屋は、他とは違う特別な雰囲気を醸し出している。
〔ここに駒居君いるのかな…〕
優羽がこの部屋にいるかどうかは扉をノックすればわかるのだが……。
〔…別に用事はないしね…〕
優羽をわざわざ別棟まで追いかけて訪ねる理由がないので、蒼空は来た道を戻ることにした。
〔何やってるんだろ…私。〕
優等生の謎の行動は気になるが、その謎を解くということは優羽に接触する可能性が高いということだ。
扉をノックして優羽に何をしているのか聞く。
ただそれだけ。
しかし、コミュニケーション経験値が皆無の蒼空には難題だ。
〔……いやー…無理だわ…〕
自分が優羽に話し掛けて質問する姿を想像したが、余りにも非現実的で無理があった。
蒼空は一階に降りて裏庭に移動した。
上を見ると、先日優羽がシャボン玉をしていた部屋ではなく、その隣りの部屋に灯りが点いていた。
「あれ?」
さっきの重厚感のある扉の部屋がシャボン玉の部屋だと思っていたのに…。
〔隣に部屋なんてあったかな…?〕
蒼空はまた興味が沸いてきたが、今は優羽があの部屋にいるかもしれない。
潜入が見つかった時の対処方法がわからない。
〔今度は駒居君が授業受けてる間に行こう〕
蒼空はこの日を境目に、別棟へ頻繁に行くようになった。