秘密の2人
《一週間前》
蒼空は冬休みの間、優羽の事ばかり考えていた。
優羽の言葉が胸に刺さったままになっていて、気持ちが落ち込んでいたのだ。
二年になれば優羽の軽蔑対象になってしまうのが嫌で嫌で仕方がない。
〔でも、しょうがないしね…〕
二年から万年追試組を選択したのは自分で、学園に残るためにはそうするのが一番だと思った。
今更また特進組で頑張りたいとは、とてもじゃないが親に話すなんてできない。
そんなことを言えば、すぐにでも転校させられそうだ。
「はー…。追試組に行ってしまうと、皆ひとまとめで馬鹿扱いされるのかー。」
蒼空はまたモヤモヤした。
「どこのクラスの誰だって、一人一人に個性があるのに…。」
蒼空は自分の言葉にハッとした。
「そうだ…。個性だ。」
まだ特進組の間に、自分を優羽の印象に残るようにしたい。そして特進組に居た私が、追試組に行くのには理由があるんだといつか気付いてほしい。
蒼空はどうすれば個性的になれるのか考えた。
だが、さっぱりわからない。
それから毎日、個性をアピールするいい方法がないかと悩んだがわからない。
そんなある日。
蒼空がいつものようにダイニングテーブルの椅子に座り、ご飯を食べながら悩んでいると、見かねた母が声をかけてきた。
「何か悩み事?」
「え?」
声をかけられて、蒼空は母を見た。
「最近、ひとりでうーんうーんって言ってるじゃない?何かあったの?」
「…え…そんな感じになってる?」
蒼空は周りに気付かれないように考え事をしているつもりだった。
「うん。眉間にシワばっかり寄せてると、そのまま本当のシワになるわよー。」
「えっ!?やだっ!」
蒼空は眉間を隠した。
「悩んで答えが出ないのなら一旦休憩して気分転換して、その真っ黒で重たそうな頭をたまには軽くしてあげなさい。オーバーヒートする寸前よー?」
「真っ黒で重たそうって…。仕方がないじゃん、生まれつきなんだから。」
「いや…まぁ…真っ黒の髪はそうだけど。頭で考えて答えを探そうとしても、頭でっかちになるだけの時もあるってことよ。」
母は蒼空に話した。
「自分一人では考え方に刺激がないからなかなか答えが見つからないかもしれない。周りから刺激を受けて見つかる答えもあるのよ?」
「そんなもの?」
「そんなもの。で、何悩んでるのよー?」
〔数日考えても答えは出なかったし…〕
蒼空は母から差し出された助け舟に素直に乗ってみることにした。
「…私の個性的な部分って何?ってことを考えてるんだけど…」
「蒼空の個性的な部分?」
「うん。」
蒼空は真剣な顔で母を見つめて答えを待った。
「そうねぇ…。お母さん目線からだと、今の状態の蒼空が個性出てるって感じだけどね~。」
「今の私?」
蒼空は意味がわからなかった。
「そう。ひとりで寡黙に何かを考えているのが蒼空ってイメージ。学校でも周りとは余り話さないんでしょう?きっと学校でも同じ感じに思われてると思うよ?」
「寡黙…。確かにほとんど話ししない。」
「でしょ?だからきっとあなたは周りから謎めいた人とかに思われてるかもね。」
「いや…それはないかも。特進組は勉強ばかりしてるから、周りなんて見てないとおもうけどなー。」
ましてや、自分の事を人格分析する暇な人間は特進組にはいないだろう。
蒼空は個性的な部分が寡黙なら、それをアピールするのはどうしたらいいのかがまたわからなくなった。
「じゃあさ、寡黙さをアピールするにはどうしたらいいと思う?」
「あら?なーに?好きな子でもできたわけ?」
「えっ!いやっ…違うし!」
「そーおー?」
「そうですよ!」
何で急に母が勘ぐったのか、蒼空はわからなかった。
「まっ、後々教えてもーらおっと!で、寡黙さをアピールするのねー。無理でしょ。」
「無理!?」
「今以上の寡黙なんて無理だし、ただの暗い子になっちゃうでしょ。」
「そうだけど…」
蒼空はガックリした。
「反対よ。」
「え?」
「蒼空が寡黙なのはわかってること。自分をアピールしたかったら今までの個性を破ることをしないとダメよ?」
「個性を破る?」
蒼空はまた意味がわからなかった。
「そっ!すごく簡単なことよ。まじめっこのあなたがそうじゃなくなるのよ。」
「…不真面目になるの?」
「いや、それは困るんだけど…。性格はそのままで、見た目を変えるってのはどう?」
「見た目?」
「そう。イメチェン。」
蒼空は自分の今と違う姿を想像してみたが…イメージがわかない。
「…例えば、どこをイメチェンしたらいいの?」
「それは自分で決めたらいいと思うけど…。そうねぇ…その真っ黒の髪の毛とか?イメチェンではノーマルパターンだけど、あなたの場合は多分クラスに茶髪の子とかいないだろうし、目立つかもねー。」
「親が高校生の子供に茶髪を勧めるー?」
「別にいいじゃない。校則違反にはならないんだから。そもそも聞いてきたのは蒼空でしょう?」
「そうだけど…」
茶髪なんて考えたことも無かった。
学園では確かに茶髪の生徒をあちこちで見かけるが、勉学優先の特進組には一人もいない。
蒼空はまたしばらく悩むことになった。