溺れる月
海に下って行くように見える。
と、ふいに彼女が言った。
「この坂って、まっすぐ海に下って行くみたいに見えるよね。
まるで吸い込まれて行くみたいじゃない? 」
エレベーターで彼女に追いつき、家まで送ることを告げると、
はじめは驚いていたが、
「じゃあ、海まで一緒に行こうよ」
と逆に彼女に誘われた。
病院から、海沿いの国道に降りて行く道は
結構な傾斜になっている。
さっきから、その坂を上って来る人が、
不躾に彼女の傷を目で追うのが耐えられず、
羽織っていたパーカを肩に掛けてやる。
紺色だからさっきの血は目立たないし、
今の状態よりはましだろう。
彼女の傷は、包帯を巻かれた左の手首だけではなくて、
それはもう、両腕の至る所にあった。
と、ふいに彼女が言った。
「この坂って、まっすぐ海に下って行くみたいに見えるよね。
まるで吸い込まれて行くみたいじゃない? 」
エレベーターで彼女に追いつき、家まで送ることを告げると、
はじめは驚いていたが、
「じゃあ、海まで一緒に行こうよ」
と逆に彼女に誘われた。
病院から、海沿いの国道に降りて行く道は
結構な傾斜になっている。
さっきから、その坂を上って来る人が、
不躾に彼女の傷を目で追うのが耐えられず、
羽織っていたパーカを肩に掛けてやる。
紺色だからさっきの血は目立たないし、
今の状態よりはましだろう。
彼女の傷は、包帯を巻かれた左の手首だけではなくて、
それはもう、両腕の至る所にあった。