溺れる月
息が苦しい。上手く空気が吸えない。



まるで、なにかを引きずっているように足が重い。


 螺旋階段を上り、さらに上へ向かう梯子を上り、


展望台に辿り着くと、雫が柵に片足を掛けていた。



「雫!」


一瞬、雫の身体が強張ったが、


こっちを振り向くと僕の方をにらんで叫ぶ。



「来ないで!あたしのことなんか見ないでよ!」



「何でだよ。死ぬ時は俺の前でって言ってただろう」


柵によじ登り、片手だけ柵を掴んで立ち上がり叫ぶ。


「ずっと決めてたんだから。あたしは死ぬの。死ななきゃいけないの。」


僕も、負けない様に腹の底から声を出して叫ぶ。


「もう、お母さんは死んだんだよ!


君が、苦しめられることなんてもう無いんだ!」


雫の目からたくさんの涙が頬を伝う。



「だって、あたしが誰かを愛したって、


きっと傷付けちゃう。


その人も、子供も。


もう嫌なの。


これ以上ギセイシャ増やす前に、


あたしなんか死んだほうがいいの!」





だってママにも愛して貰えなかった。



最後の方は、絶叫だった。


雫の身体が、ゆっくりと後ろを振り返る。


突然、眩しい光が僕と雫の間を横切った。


朝日が昇る。


その時、目がくらんだのか雫が柵の上で態勢をくずして、


後ろに仰け反った。



まるで背面飛びをする様にバーを背にして。


「キャアアッ」


白いワンピースの裾がひるがえり、履いていたミュールが飛びあがる。



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