キミの背中。~届け、ラスト一球~


あたしがはっきり断る前に、ふたりは教室から足早に出て行ってしまった。


取り残されたあたしは、宙に伸ばした手を静かに引っ込める。


どうしよう……。

断るつもりだったのに……。


あたしは、もうトランペットはやらないって。


すぐに言えばよかったのに……言えなかった……。


「どうすんの?」


スクールバックの中に教科書を入れる作業を再開させてたら、黒の大きなエナメルバックを下げた草太があたしの前に来て窓際に寄り掛かった。


あたしは草太を見上げて、大きなため息をつく。


「草太……あたし、断り切れなかった」


「………」


「どうしてだろう。もうやらないってはっきり言えばよかったのに、言えなかった」


静かに言うと、草太は壁から体を起こし、あたしの頭にポンと手を置いてから教室のドアに向かって歩き出した。


「それ、おまえの中で迷いがある証拠だろ?
行くだけ行ってみれば?じゃあな。俺部活行く」


ヒラヒラと後ろ向きに手を振る草太の背中を、唇を噛みしめながら見る。




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