キミの背中。~届け、ラスト一球~


突然音楽準備室のドアが開き、中から長谷川さんが出てきた。


不安が溶けたような、とても嬉しそうな顔をしながら。


「来てくれなかったらどうしようって思ってたの!!こっち来て!!」


準備室のドアから「早く」と手招きする長谷川さん。


外見は大人しい感じなのに、かなり積極的。


手招きに導かれて準備室に入ると、一気に中学の頃の部活風景が蘇ってきて懐かしさでいっぱいになった。


今は練習中だから棚の中はガラガラだけど、所々放置されたままの楽器がいくつかある。


トランペットのケースも4つ棚に残っていた。


「新堂さん、楽器は自分の持ってるの?」


「え?ああ、うん、まぁ」


何でだろう。


大人しいのは長谷川さんの方だと思っていたのに、今はあたしの方が大人しいキャラになってる気がする。


人見知りする方でもないのに変に挙動不審になってしまうのは、きっとこの場に居づらいからだと思う。


「よかった。ここにも楽器は残ってるんだけど、ちょっと古いから使うのイヤかなぁと思って」




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