キミの背中。~届け、ラスト一球~


1日吹かないだけで調子が狂うんだから、1年半も全く吹いていないとこうなることはわかってた……。


トランペット、こんなに重たかったっけ……?


マウスピース、こんなに唇に馴染まなかったっけ……。


もう1回、マウスピースを唇に当てお腹から息を吸い吐きだした。


ベ。これが、マウスピースから出た音。


唇が長く震えもしない。


プスー。とただ息が通るだけで、何も音を出せないマウスピースとトランペットを、楽器ケースにしまった。


手に残るトランペットの重みが、あたしを切なくさせる。


『新堂。おまえ、須満(スマン)高校を受けてみたらどうだ?』


中学の頃、顧問からそう提案された。


須満高校とは、全国でも有名な吹奏楽部のある高校。


各県から吹奏楽を愛してる人がたくさん受験しにやってくる。


吹奏楽をしてる人は必ず知っている学校で、あたしもその高校の名前を目にする度に、憧れて行けるものなら行ってみたいと何度も思った。



< 54 / 300 >

この作品をシェア

pagetop