くすんだ空を見上げれば


「そうよ。あの人、下の名前は教えてくれないの。誰に聞いても教えない。本人も絶対にね。
でも、私とは全てが相性も良くて、ベッドの中で教えてくれたわ。
さっきも言った通り、格が違うのよ。可哀想なあなたに教えてあげる。騙された惨めなあなたにね。
下の名前ね、ハルトって言うの」

自慢気に笑う女を見て、凄く腹が立つ。今までこんなに怒った事はない。
名前なんてどうだって良い。
理由だってこの人から聞きたくもない。この人に神谷を語ってほしくない。

私より前の神谷を知ってるかもしれないけど
今の神谷は私が一番知ってる。そう信じてる。

想いを伝えたのもそんな簡単な思いじゃない。

あれこれ考えて声にしようとした時バシャッと勢い良く水が顔に飛んできた。



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