くすんだ空を見上げれば
「着いたよ」
そう言われ顔を上げると一軒のお店に着いていた。
「ここ?」
「うん」

何の躊躇いもなく中へ入ろうとする神谷。

小さい店だけど…
居酒屋だよね…?

「大丈夫、ここ知り合いの店だから」
そう言って中へ入った。



「おっ
神谷!!何?彼女か?」
男の店員はおしぼりを渡しながらニヤニヤしていた。
彼女って…。



カウンターに二人で座る。
「どうぞ、彼女さん」
私にもおしぼりを渡した。

「彼女じゃないです…」
小さく答えると「何だ~残念」と言って奥に引っ込んで行った。



「好きなの食べな」
メニューを見て色々考えたが初めて来た私は緊張している。

「酒は飲める?」
「少し」

紅葉と家で缶チューハイを飲んだ事はある。
「グレープフルーツで…」
「ジュースで割る?」
「うん」

よく分からないから目に入ってきたものを頼んだ。


居酒屋なんて初めて。
外でお酒を飲む事も。



「初めて遊んだ記念に、乾杯」

グラスの当たる音が綺麗で少し大人になった気分を味わった。


水割りなんて飲んでる…


本当に二つ上なのかな…。

私は水割りって響きが大人に感じた。


適当にツマミを頼んで黙々と食べていると、横で楽しく無邪気に笑いながら店員と話す神谷が居て
それを見た私はなんだか心地よくて
少し神谷に近付けた気分になった。



さっきから私が飲み終わると神谷は私のお酒を作ってくれる。

私は出来ないから手は出さないけど、作り方を見て覚えた。



神谷の空いたグラスをぎこちなく取って私も作ってみたら「美味しい」ってニコニコしながら飲んでくれた。


でも、楽しい時間もずっとは続かず、頭がフラフラになり始めた。
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