くすんだ空を見上げれば
バンッと勢いよく開いた扉に目をやると
母親が包丁を持って立っていた。
その形相は恐ろしく
私は足がガタガタ震えて動けなくなった。
「あんたたちのせいで!!」
耳が痛くなる程の突き刺さる声。
包丁を振り上げて私に近寄る母親。
その後ろから怒鳴る紅葉。
母親を押さえ付けようと、振り回す包丁を避けながらも立ち向かう知らない男の人達。
頭が真っ白になった。
こんな狭い部屋の中で行われるこの状況はとても理解しがたい。
「大丈夫だから」
その声が私の頭上から降ってくる。
前が見えなくなったのは涙のせいじゃなかった。
私の前には大きな背中。
頼らずにはいられなくて
神谷のTシャツにしがみついた。
理解出来ないこの状況を少しずつ理解しなきゃいけない。
色々な鈍い音や怒鳴り声。
「誰があんたたちを」
母親の言葉はそこで終わって
変わりに倒れる音がした。
ズルズルッと引き摺る音。
「っのヤロウ…
楓、もう行けるか?」
息を切らしながら紅葉が聞いてきた。