黒白世界
「あ、あのね捺芽(なつめ)ちゃん。もし退院できたらでいいんだけど……8月にある夏祭り、一緒に行けるかな?」
今は4月。
世の中では出逢いの季節なんぞと浮かれきっているが、こちとらそうもいかない。
出逢いなんて、必要不可欠。
むしろイラナイくらいではないか。
本音こそ毒を吐いているものの、"女としての蓮菊 捺芽"は、いつでも優しく可愛らしい女の子でいなくては、ならないのだ。
「退院したらかあ……。早く退院できるといいな。そしたら栞ちゃんと夏祭り、行ける"かも"しれないのにね」
「うんっ、捺芽ちゃんとの夏祭り、楽しみだなぁ……」
可能性は低い。
誰がこんな勘違い迷惑女と行くもんか。一人で行ってろ ぶりっ子が。
心中毒づいているけど、今の自分は女を演じなくてはならない。
本音など出せば、それこそ自分という存在そのものが消される。
生きることって、難しい。
思わず溜め息をつきそうに「はあ」………。
あれ?
今、自分、…溜め息をついてしまったか?この、完璧演技主義者の、【蓮菊 捺芽】様が?
汗ダラダラ喉カラカラ状態でぎこちなーくベッドサイドに立つ、(自称)友人二人を見やる。
だけどすぐに安心した。
どうやら溜め息をついたのは湊(みなと)くんだったようだ。
自分の完璧演技主義は貫けた模様。ちょっと、いやかなり安心。