2ndアルバム〜あの日の鼻歌〜
パシャッ


「うぃーっす」


水溜まりの出来た道路に出ると、すぐに横の方から声がかかる。

隣の家からちょうど出てきたらしい、一つ上の先輩。


「あ、おはようございます廻先輩」



少しきつめの目とそれに反した人懐こい笑顔。
蒼岸 廻(アオギシ カイ)先輩は小学生の時からの顔見知り。


「相変わらず時間ちょうどだなぁ兆(キザシ)は」

「名前で呼ばないで下さい」


そう唇を尖らせる私に先輩は適当に返事をし「わかりましたよ宵空(ヨイソラ)サン」と訂正してくれた。












私は自分の名前が好きじゃない。
「兆」、と言う漢字の持つ意味のように、
親がかけた願いのようには、育ってはいないから。







私は、胸を張って人に示す事ができるようなものは、持っていない。



名前を呼ばれる事は、そのことを責められているようで、嫌だった。






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