密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 その声の持ち主は端正な顔立ちで、綿菓子のようにふんわり微笑んでいた。その微笑みが私の瞳の中でふんわり溶けた。

 『ドクッ』

 ひとつしかない鼓動が走り出した。



 腕の振り方や地面の蹴り方、呼吸の仕方、水分補給まで優しく教えてくれる綿菓子のような人。


 ───小学生の頃、マラソン大会で最下位だった事もある私。

 その時も多摩川の水嵩が増していた。台風が過ぎ去った後だったのかもしれない。

 みんなの背中が遠く小さくなっていく、その寂しさは言葉にならない寂しさだった。

「おまえ、遅いな。あれで走ってたの?」

 やっとゴールした直後、好きだった男子に笑われた。


 一人が笑うと『皆、一斉に続け!!』というようにみんなが笑いだす。

 その笑い声が辛かった。

 笑いが伝染するのは面白い時、楽しい時がいいと思う。こんな風に伝染してほしくない。

 傷つく人もいるんだから。




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