密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 私が十二歳の時に両親が離婚した。私はママに、お兄ちゃんはパパに引き取られた。それまでは二十四色のクレヨンで描いていた日常が十二色で描ける日常に変わった。

 佐久間先生は、どことなくだけどお兄ちゃんに似ている。

雰囲気?

話し方?

眼差し?


 どれも決定的ではないけど似ている。お兄ちゃんに似ているという事は、パパにも似ているという事。

 お兄ちゃんとパパの居場所を知らない私は会いたくても会いに行けない……。

 中学校の卒業式の日にパパとお兄ちゃんが会いにきてくれた。

「菜奈、卒業おめでとう」

 と、パパがくれた花束は枯れずに今でも私の心の中で色鮮やかに咲いている。

 それが最後。それ以来、会っていない。

 パパやお兄ちゃんに対する気持ちや想いが佐久間先生を好きになった理由の中のひとつ。

 佐久間先生はストレスがリミットに達する寸前の私を学校という居場所で救ってくれた。


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