密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 智久が私の手を強く握って目に涙を浮かべている。それが水滴となり、点滴と同じくらいの速度でベッドに落ちた。

 馬鹿だな、私。大好きな人を泣かせてる。

「いなくならないよ、私」

 少し微笑むと、頬や口の脇がひきつるように痛んだ。傷だらけなんだと想像できた。


 好きだから嫌われたくない。

 でも嫌われるかどうかもわからないのに、その前にこの世からいなくなってしまったら、それで終わりになってしまう。


 命って一度きりなんだと、そんなわかりきった事を身体中の痛みと共に思い知った。

 ケータイは充電すれば生き返るけど、人の命は心臓という液晶画面が真っ暗になった時点で終わってしまう。

 時は進むだけでなにがあろうと、どんな理由があろうと、決して戻せない。




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