密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 ───それから十六年後。

 この街に『楓』という洋菓子店がオープンした。ログハウス調の店内にはいつも甘い香りが漂っている。

 まるで、お店とスイーツが呼吸を重ねているよう。優しい息吹を感じる。

 どのスイーツにもメープルシロップが使われていて、見た人を虜にする艶と気取らない色があり美しい。

 特にメープルプリンを食べた人は必ずといってもいいくらいその虜になる。

「幸せの味がする」

 と、口コミで広がり、雑誌で取り上げられてからは、メープルプリンに限らず『幸せの味がするスイーツ店、楓』と呼ばれるようになった。

 私も智久が作るスイーツが大好き。私はずっと智久の虜。

 あの事故で左足に後遺症が残ったままだけど『楓』の店頭に立っている。智久と同じ『楓』という名字になって。

 この後遺症は命を無くすような行為をした自分への教訓。リハビリをしながら痛みともうまく付き合っている。

 悔いのないように今日を生きている。


 四十歳になってふくよかになった私と智久の今は、メープルプリンのように甘くて滑らか。

 そのメープルに二人の『幸せ』という文字が溶けている。だから幸せの味がするのかもしれない。





【幸せの味*END】


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