密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 クリスマス。

 私は両親と過ごした。

 その日、父が仕事で東京へ行き、クリスマスケーキを買って帰ってきたのだ。

 友達のユッキーとナオリンとカラオケに行って、その後、ユッキーの家でパーティーをする予定だったのに。

 私には父のクリスマスケーキを無視して出掛ける勇気がなかった。

 父は短気で頑固だから、また怒られるのではないかと、怖かった。

 母にも「今日はうちにいなさい」と言われた。

 高校生にもなって両親と過ごすクリスマスなんて最低だと思った。

 ユッキーの家は松重先輩の家の近くだったから、もしかしたら松重先輩と逢えるかも、なんて淡い期待を胸に抱いていたのに……。


 父が買ってきたクリスマスケーキは生クリームにメープルシロップが混ざっていて口の中で甘く蕩け、おいしかった。

 『楓』というお店のクリスマスケーキで可愛いサンタとトナカイの砂糖菓子が乗っていた。


 その後もボールを追いかけグラウンドを走る松重先輩の姿を教室のベランダから見ていた。

 らくがき帳にもその時の淡い気持ちが綴られている。


『松重先輩が好き。

 好きすぎて今夜もまた眠れない。

 松重先輩は私が毎日、教室のベランダから見ている事に気づいているのかな。

 気づいていてほしい。

 あのコ誰だろう、かわいいじゃん、とか思っていてほしい。

 松重先輩にもっと近づきたい。

 松重先輩に私の名前を呼んでもらいたい。

 もうすぐバレンタイン!!
 ああ、どうしよう……』




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