密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~



 亮を会社へ送り出した後、窓の外を内気にただ眺める。

 庭に咲く紫陽花。しとしと降る雨粒がその葉を滑り、かたつむりを巻き込んで土へと染み込む。

 じめじめした梅雨。雨が水溜まりになろうと渋滞している。

 高まる湿度。なにもしていないのに首筋に汗が滲む。

 お隣の軒下にぶら下がっている、可愛いてるてる坊主。小学生の姉妹が作ったのだろう。

 亮は窓の外で遊ぶその子供たちに笑いかけている事がある。子供が好きだってよく知ってる。幼馴染みだから……。

 同じ『雨』が降っているのに隣の芝生が青い。まるで『雨』が降っていないかのようだ。

 つけ睫をしたような今どきの顔をした、てるてる坊主。そのてるてる坊主の顔が一瞬、のっぺらぼうに見えて、私は急いで白いカーテンを閉めた。

 しとしと降る雨音がじめじめと心の湿度を高めた。悲しみでばらばらになりそう。

 肌を伝うのは汗なのか涙なのかわからない。

 喉はからから。

 私の心には、のっぺらぼうの、てるてる坊主が逆さでぶら下がっている。首を吊りそうになりながら。




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