密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 それでも代わり映えのしない景色と代わり映えのしない龍平のいびきに少しだけ苛立った。

 バイクがそれを煽るように先を行く。

 付き合い始めた頃は渋滞さえも幸せに思えた。

 車は二人だけの動く空間。

 ラジオから流れてきた曲を二人で聴きながら思い浮かんだ事を何気無く話す。それだけでよかった。


 この車は龍平のもの。でも、鍵は私が預かっている。龍平はもう何年も運転していないぺーパードライバー。都心に住んでいるから交通の便もいいし、運転できなくても特に不自由はない。

 遠出をする時は私が龍平の住むマンションへバスで向かい、マンションの駐車場に止めてあるこの赤い外車のエンジンをかける。

 出発予定時刻寸前で龍平が猫背を更に丸めるように姿を現し欠伸をしながら助手席に深く腰を下ろす。


 今日もその絵に描いたような状態が予定通り行われ、都心から車を運転する事、三時間半。

 龍平が望んでいた日帰り温泉へ着いた。




< 250 / 304 >

この作品をシェア

pagetop