密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
二人の出逢いは喫茶店『マーガレット』だった。
仕事終わりに淡く灯る明かりに引かれ、ふらっと立ち寄った私を薫り高いコーヒーが癒してくれた。
赤いベロア張りの椅子。
焦げ茶色のテーブル。
無口だけど話を聞いてくれるマスター。
落ち着いて流れゆく時。
流行りのお洒落なカフェにはない何十年も続いている歴史ある空間だった。
仕事が終わると真っ先にマーガレットへ向かうようになった。
窓際の一番奥の席。そこには鼻が高くて、ふっくらした唇の男性が毎晩のようにいた。
スーツ姿でゆったりとコーヒーを飲み、至福の時を堪能している様子。そして時々、経済新聞を開く。
いつの間にか私はその男性に惚れていた。それが龍平だった。
ある夜、店を出た龍平に私から声をかけた。
「あのっ!! 明日の夜、ここで一緒にコーヒーを飲んでもらえませんか」
「ん?」
「ごめんなさい、突然。意味わかりませんよね……」
「いいよ。明日も来るから。それじゃ」
たまにマスターの武内さんと話している声を聞いていたけど、好きな人が私のために発してくれる声は特別だった。
龍平は止めたタクシーに乗り込むと都会のネオンへと瞬くように去って行った。
私は嬉しくてスキップとまではいかないものの軽やかに駅へ向かった。安月給でタクシーで帰れるほどの余裕はなかったから。
仕事終わりに淡く灯る明かりに引かれ、ふらっと立ち寄った私を薫り高いコーヒーが癒してくれた。
赤いベロア張りの椅子。
焦げ茶色のテーブル。
無口だけど話を聞いてくれるマスター。
落ち着いて流れゆく時。
流行りのお洒落なカフェにはない何十年も続いている歴史ある空間だった。
仕事が終わると真っ先にマーガレットへ向かうようになった。
窓際の一番奥の席。そこには鼻が高くて、ふっくらした唇の男性が毎晩のようにいた。
スーツ姿でゆったりとコーヒーを飲み、至福の時を堪能している様子。そして時々、経済新聞を開く。
いつの間にか私はその男性に惚れていた。それが龍平だった。
ある夜、店を出た龍平に私から声をかけた。
「あのっ!! 明日の夜、ここで一緒にコーヒーを飲んでもらえませんか」
「ん?」
「ごめんなさい、突然。意味わかりませんよね……」
「いいよ。明日も来るから。それじゃ」
たまにマスターの武内さんと話している声を聞いていたけど、好きな人が私のために発してくれる声は特別だった。
龍平は止めたタクシーに乗り込むと都会のネオンへと瞬くように去って行った。
私は嬉しくてスキップとまではいかないものの軽やかに駅へ向かった。安月給でタクシーで帰れるほどの余裕はなかったから。