密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 チグハグな愛情が蔓延し、私は龍平の言葉で駄目になりかけている。それでも心とは裏腹に身体が龍平を求めてしまう。

 龍平の食べたくなるような唇に触れたくなる。

 今夜も車を降りたらそのふっくらした唇で身体中に触れて欲しい。

 ────龍平の部屋。

 広いフルフラットの玄関で。

 高い天井を見ながらフローリングのリビングで。

 脚のデザインが美しいダイニングテーブルの上で。

 クラシックな猫足のバスタブで。

 翔平は激しくしないから腰ごと任せられる。激しくしないのに快楽という不定義な場所に堕ちてしまう。何度でも堕としてほしい。

 こんな欲求をもった自分がこれまた嫌……。


 自己嫌悪で私の心はオーバーヒート寸前。

 追いつけるものなら追いついてみな、と人格を破壊させながら飛ばしたけど、このまま飛ばしていたら壊れてしまう。

 サービスエリアに車を止めた。

 まだ眠っている龍平を残したままひとりで車を離れる。

 春になりきっていない風が私の長い髪を揺らした。ほんの少しほっとした。


 メロンパンを持った家族と擦れ違う。小学生くらいの男の子と女の子を連れたお父さんとお母さん。その笑顔が幸せを物語っている。


 このサービスエリアの名物、メロンパン。

 私も子供の頃、両親と妹と一緒にここでメロンパンを買って食べた。遠出した帰りにそれを食べるのが好きだった。

 でも今日は胃が欲していない。

 一人で寂しく食べると家族の絆という良い思い出まで代わり映えのしない景色へ消えてしまいそうだから。



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