密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 土産もの売り場をぶらっと一周した。足湯で癒され、運転で疲れたふくらはぎがつりそうになった。

 ここで今、もう一度、温泉に浸かりたい……。


 自販機で氷の入ったコーヒーを買って、外に置かれたベンチに座る。

「はぁ……」

 紙コップの外側に着いた水滴が龍平とメロンパンを持っていたかもしれない渇いた私の手の平を適度に湿らせた。

『仕方ないよ』


 あの時の龍平の言葉が夜風で蘇り、寂しさを煽る。寂しさという車間距離が縮められていく。

 追突寸前。我慢強い私だけど、本当は弱くて。その弱さを隠すために私とは違う私を演出してしまう。

 脚本家がいたら、今の私を生まれた時のような素直で純粋な私に書きかえてほしい。

 監督がいたら、言いたい事も言えず、奥深くから常に無理をしてしまう、私の代わり映えのしないくだらない演出をやめさせてほしい。

 誰かに頼らないと私は私を隠す行為をやめられない……。

 嗚呼、武内さんが淹れてくれた薫り高いコーヒーを飲みたい。

 マーガレットが懐かしい。



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