密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 ちなみに、私が千葉の船着き場から新宿までバッグを運んだ時の報酬は三万円だった。

 私はそれで服と下着、そしてカイロを大量に買った。もしまた路上生活に陥った時、寒さで凍えないように。



 次の報酬で黒縁眼鏡を買った。幼い時、父に頬をひっぱたかれた反動でタンスの角に右目を打ち付けた。その時、右目の視力が弱くなったのだ。

 ビニール袋に氷を入れて冷やしたけど、痛みは引いても視力は戻らなかった。


 眼鏡をかけ、右目がよく見えるようになり、長年苦しんできた頭痛が、すっきり息を吐くようにおさまった。

 親にすがるようにして、月に二百円のお小遣いをもらうより、悪い事で得るお金の方が正当で清々しい気持ちがした。




 十九歳の時、私が東南アジアの何処かへ人身売買されそうになっていると組織の幹部、国枝さんが教えてくれた。


< 272 / 304 >

この作品をシェア

pagetop