密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 三十代後半に見える国枝さん。見た目は極道。頭は角刈りで、家の中でもぴしっとしたスーツを着ていた。

 着替えるのは寝る時だけ。といってもパジャマやジャージではなくそのまま外を歩けそうな服装。

 家の中でも毎日気を張っているようだった。

 でも、一緒にいる事で少しずつ柔らかい表情を見せてくれるようになっていった。

「可愛いなぁ」

 テレビに映っていたゴールデンレトリバーの赤ちゃんを見て、国枝さんが笑った。

 優しそうに『ふにゃ』っと。その時の顔は今でも鮮明に覚えている。

 だけど、自分の事はなにも語らなかった。組織がどんなものなのか内情を聞きたいという思いはあったけど、私も自分の事はあまり話したくなかったから聞かなかった。

『国枝さん』と『りん』

 それでいい。

 本名や生年月日、血液型。国枝さんの個人情報は私の想像の中だけにあればいい。



 今が穏やかで平和で、こうして二人で暮らしていければいい。そう思っていたし、それを願っていた。 

 だけど三年で終わりが訪れた。

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