密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
────私が死んだら、草花よ、どうかそこから芽吹いてください。地味で小さな生命でいいから。そして、そこに蝶がとまってキスをしてくれたら幸せです。性別を持って生まれたのに私はキスさえした事のない女なのです。
明日は私の四十回目の誕生日。今までよく頑張ってきた、と『死』を四十回目の誕生日プレゼントにしようと決め、役所で臓器提供カードをもらってきた。
人身売買を免れ、生き残った臓器を誰かのために使ってほしい。学力は笑えるくらいないけど使えるものはあるでしょ? 誰か「ある」と言って……。
死んでしまう前に大嫌いな両親の顔を見ておこうと、縁を切ったつもりでいる山梨の実家に向かった。
二十五年振りに門の前に立つ。
郵便受けが錆び付いている。
玄関の引戸が軋んでいる。
雨樋が壊れかけている。
表札の『田口』の口の中には小さな蜘蛛が這っていた。