密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 
 漫画も描かない。仕事も探さない。

 なにもしないで、夢は叶わない。なにもしないで、夢は叶いますよ、と希望した物が空から降ってくるなんて有り得ない。

 神様はそんなに甘くない。

 失業手当で足りない金銭面は私が補う。

『腹減った。千夏、なんか作って』

 慎吾からメールがくると、私はスーパーで野菜や肉などの材料を買って、慎吾が暮らすアパートへ行き、料理を作る。

 要するに、外食するお金もないし、自炊する食材もないから、食材を買ってきて、ついでになにか作って、という事。

 私だって自分の生活だけで一杯一杯。香川で暮らしている両親へ仕送りもできていないのに。

 その上、母が宅配便で送ってくれたうどんを慎吾に持っていくというこのやるせなさ。


 やっぱり、チープなのは映画ではなく、私の生活そのもの。

 唯一の趣味、大好きな娯楽である映画に八つ当たりするなんて情けない。



 職場とは違う生身を覗かれ恥ずかしくなった私はわざと寒そうに引っ込めた手をコートのポケットへ隠した。

 


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