密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~

 たったひとつしかない空。


 たったひとつしかない海。


 たったひとつしかない雲の形。


 たったひとつしかない命。


 手で握ったおにぎりの形もたったひとつしかない。


 私の恋愛は綺麗な円を描いた事がない。それは私が握ったおにぎりみたいな不格好な丸。それでも私は綺麗な丸や三角のおにぎりを買うより、自分で作ったおにぎりを晴斗に食べてほしい。

 お米を研いで、炊飯器に入れてスイッチオン。ツナにマヨネーズとほんの少しお醤油を入れて混ぜる。昆布には白ゴマを振る。炊きたてのご飯に、具を入れて握る。最後にのりを巻いて、私の恋の形が、愛の塊が出来上がる。



 今、柔らかくて優しい体温が私の唇に触れている。


 ぷるんぷるん


 それは晴斗の唇。初めて触れた唇だけどその質感から晴斗のものだとわかる。

 学生の頃から友達としてずっとその唇を見てきたから。

 いつの間にか、友達というフラフープのような輪が私と晴斗の周りに存在していて、友達という関係を守るように回っていた。友達以上の『好き』という言葉は口に出せなくなっていた。出してはいけないそんな気さえしていた。

 だから今、すごく幸せ。真っ白な雲を通り越して宇宙まで飛んで行っちゃいそうなくらい、すっごく幸せ。

 このまま眠っているふりをしておこう……。





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