密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~

 この匂い。

 この匂いが好き。


 段々と近づいていく。

 この甘ったるい匂いに近づいていく。
 
 冷静さを気取りながら、歩幅を小さく、ゆっくりと。


 ほら、そこに見えるでしょ。スーツを着た長身で細身の男の姿が。もう待ちきれないよ、と言うようにネクタイを緩めている。

 私ももう待ちきれない。その感情だけが本棚の隙間を縫って駆け出した。


 眩しくて綺麗な瞳。見つめられたら耐えられないその瞳。

 甘い匂いの発祥地はその『男』なのだ。

 どのブランドの香水なのか、まだ聞いていない。聞けていない。聞く前にキスで口を塞がれるから。

 どのブランドの香水か、なんて、一生聞かなくていい。聞かなくていいからこの唇と唇を離したくないの。




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