密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 私は明日の朝、遼太郎と一緒に食べるクロワッサンを買いにそのパン屋へ向かっている。


 息が切れる。胸がドキドキする。

 それはオリンピックに出場し、感動をもたらしたアスリートでも悲鳴をあげそうなほど坂が急勾配だから。

 そう思いたいけれど、そうではない事を高鳴る胸は知っている。



 このパン屋の店主は恋人を置いてドイツやスイスでパンの修行をしてきた。

 その恋人は私。

 置いていかれたというより、着いていく決意ができなかった。

 仕事で初めて大きなプロジェクトを任された時で、なんとしてでも成し遂げたいという気持ちが先に……。

 こんなの今思えばただの言い訳。

 将来を決めてしまうのが怖かった自分へ見栄え良く綺麗な赤いリボンをつけて贈った言い訳。




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